
検査室のインシデントってどんな時に起きるのかな・・・?
「インシデント」とは、出来事や事案を意味する言葉です。医療においては、「誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもの」とされています。
検体検査においても、インシデントに繋がるような場面はそれほど稀なことではありません。どのような時にインシデントが起きてしまうのか考えたいと思います。

機器測定で誤った結果が報告される
間違いなど起きるはずはない・・・?
検体検査は、多くの場合、数値結果を報告します。測定のほとんどが自動分析装置で行われています。自動分析装置での測定は、検体を装置に架設すれば、一定時間の後、結果が出てきます。多くの場合、分析装置はシステムと連携しておりバーコードを使用して運用されているので、検査依頼項目の設定から結果報告まで、基本的に人の手を介することなく行われると言えます。

そのような状況であれば、間違いなど起きるはずがないと思われるかもしれません。実際、手書きの氏名ラベル、手で記入する台帳、手動で依頼項目を設定する分析装置、手書きの報告書、等を使用していた頃と比べて、人為的な間違いは減っていると思います。しかし、それでも誤った結果が報告されることがあります。

測定機器の試薬

自動分析機はさまざまな試薬を搭載して使用します。最近の分析機器では、試薬もすべてバーコード管理されています。試薬をセットするエリアのどこに試薬をセットしても、機器がスキャンすることで試薬が認識されるタイプのものが多くなっています。これは、試薬の搭載方法が進化した結果です。

以前は、あらかじめ登録した試薬を決まった場所にセットするというような手法でした。その後、バーコードを使用するようになりましたが、最初は、機器に架設する時に手動で試薬ボトルのバーコードを読ませ、あらかじめ設定された場所に置くといった形式でした。その後、機器が試薬のバーコードを読み取り、どこにどの試薬があるかを認識する、つまり試薬搭載エリアであれば、どこに置いても認識されるという形式へと変遷してきました。

試薬には、項目専用の試薬と、共通試薬などと呼ばれる試薬があります。免疫検査などの測定機器では、項目専用の試薬のほかに、共通試薬などと呼ばれる、どの項目にも共通して使用する試薬が必要な場合があります。分析機によって異なりますが、この共通試薬は、項目専用の試薬とは別の場所に、別の方法で架設する仕様になっていることが多いかもしれません。

また、共通試薬と呼ばれている試薬は、ひとつの分析機で1種類とは限りません。何種類かあり、その容器のデザインが似通っている場合が多いように思います。しかも装置に架設する際に、完全なバーコード管理がされていない場合も少なくありません。また、洗剤などとも同型の容器が使用されている場合もあります。これは頭を悩ませる原因になると思います。
試薬間違い
誤った試薬で測定すると、当然正しい結果は得られません。第1試薬と第2試薬を置き間違えても、正しい測定はできません。自動分析機はさまざまな作業が自動で行われ、測定時間の短縮をはじめ、臨床検査の効率化と検査過誤の防止に貢献しています。試薬のバーコード運用もその1つで、試薬の間違いによる誤った測定を防ぐことに有用です。どれだけ気を付けても、人が行うことには間違えるリスクがあると思います。

通常、検査を実施するにあたって、コントロールの測定を行います。これは、装置や試薬など、その検査に関わるすべての事柄について、正しい測定ができることを総合的に判断する手段ともいえます。したがって、通常は始業時と終業時のコントロール測定は必須とされ、さらに適当な間隔で検査中にも測定します。また、このような定期的な測定とは別に、検体測定の途中で試薬を追加しなければならなくなった時などにも、実施しなければなりません。

ところが、このコントロール測定のルールが機能していない場合があります。例えば、コントロール測定の後に、試薬をちょっと追加してしまう、試薬の場所をちょっと変えてしまう、などの行為が行われてしまうことが全くないとは言えないのが現状です。また、共通試薬と呼ばれる試薬に関しては、さらに取扱いが緩い場合があり、検体測定の途中で交換することになっても、そのまま分析は続行されることが多いかもしれません。

結果に違和感

共通試薬の架設間違いによる誤まった結果が報告されたことがあります。同型の容器に入った共通試薬と洗剤等が、3種類ある分析機を使用していました。測定試薬は完全な専用試薬でバーコード管理がされていました。共通試薬や洗剤も、もちろんそれぞれ架設場所は異なるのですが、バーコードによる管理はされていませんでした。

共通試薬の1つが検体測定中になくなったため、その時の担当検査技師は新しい試薬と交換しました。しかし、実は別の試薬を架設してしまったのです。この時、おそらくコントロールを測定すれば気付くことができたのではないかと考えますが、その当時、その施設では、それほど厳格な管理は行われておらず、コントロール測定は始業時と終業時だけでした。

誤った共通試薬を架設した状態で、検体測定は続行していました。一つでも誤った試薬があると、正しい反応にはならないので、正しい測定結果を出すことはできません。全く数値が出ないのであればさすがにすぐ気付くと思うのですが、この時は、実際よりも低い値でしたが0になるわけではなく、なんとなく「それっぽい数値」が出ていました。検査結果は、前回値等と確認しながら確定していくわけですが、すぐには異変と気付かなかったようです。

それでも10検体以上結果を確認していくと、担当検査技師はなんとなくおかしいような気がしてきたようです。その分析機は免疫測定装置で複数の項目を測定していました。しかし、特定の項目の検査件数が多く、その項目は疾患に特有で、もともと高値を示す検体が多かったのですが、その時の結果は一様に低い値を示すものが続いたため、前回値と比べても違和感があったようです。

その後、測定機器を確認して、試薬の間違いに気付くに至ったわけですが、すでに10数件の結果は報告されていました。正しい試薬の架設などの適切な対応の後、検体の再測定を行いました。もちろん、臨床側にはすぐに謝罪と状況報告をし、結果の訂正をしたわけですが、ほとんどが外来診療の診察前検査だったため、すでに患者様に説明されてしまった症例もあり、患者様への謝罪も含めた事後処理をすることになりました。
医師からの指摘
休日の出来事でした。その当時、休前日、あるいは当直時間帯に入る前に、検体検査の担当検査技師が試薬を揃え、キャリブレーションやコントロール測定を実施し、機器の状況を確認して、日当直者に引き継いでました。日当直者は、そのまま機器を使用します。土休日なども、コントロール測定は一部の項目のみ実施していました。

休日の午後だったと思います。日当直者から連絡がありました。医師から「今日のAPTTの結果、長くないですか」と言われたと。特定の患者様の結果ということではなく、全体に長い感じがするというのです。日当直者は検体検査の担当ではなく、つまり、当番の時だけ検体検査をする検査技師でした。臨床検査技師としてはそれなりにキャリアのある技師で、日当直の経験もそこそこある人物です。

その日のAPTTの検体数は10件程度だったかと思います。休日は医師も当番体制なので、たまたま一人の医師がそれらの結果を見ていて、全体に長いような気がするという印象を持ったようです。

連絡をしてきた日当直者に検査結果を聞くと、たしかに若干延長気味な印象でした。ただ、担当した検査技師も必要と思われる検体については再検査も行っているとのことでした。こうなると、コントロールの確認が必要と考え、測定するよう指示をしました。

すると、やはりコントロールの値も延長しています。そこで、装置に架設している試薬を確認してもらいました。APTTの試薬は液状試薬、2試薬系です。実際の試薬を確認してもらうと、第1試薬と第2試薬の場所が入れ替わっていました。つまり、測定の際、第2試薬が先に分注されたと考えられます。

この時点で、おそらく試薬の置き間違いによる誤測定が起きたと想像できました。実際には、準備をした担当検査技師の話も聞かなければなりませんし、結論はもう少し調査をしてから、ということになります。ただ、この日の検体については早急に対応しなければなりません。

日当直者に、新しい試薬を別の場所に設置してコントロールを確認した後、すべての検体の再測定を実施するよう指示をしました。検査後、医師に状況説明と再測定結果を伝えました。幸い、その結果をもとに何らかの処置をされて患者様はいなかったということでした。

この時使用していた凝固検査の機器は、試薬のバーコードを読ませることはできますが、場所を指示してそこに手動で設置する、という形式でした。つまり、設置後に分析機が試薬をスキャンすることはありません。試薬の設置後は、コントロール測定を行って確認することになっていました。

この時、準備をした担当検査技師は、試薬を準備した後コントロール測定をしていました。しかし、その後別の作業をして、これが、置き間違いにつながりました。そしてそのことに気付くことができないまま、日当直者に引き継がれてしまいました。日当直者もコントロール測定を実施するタイミングがあれば、問題があることに気付くことができたと思われますが、この時、この施設では日当直者がすべてのコントロールを測定するルールになっていませんでした。

誤報告をしないために
確認する手段を用意する

検査結果の誤報告は決してあってはならないことです。しかし、検体の取り間違いや入力ミスなど、さまざまな要因で起こり得ます。今回取り上げたような試薬の間違いによる誤報告は、正しく機器を使用していれば起こらないはずです。しかし、些細なものも含めれば、試薬に関する間違いは少なくないと思います。

自動分析機の試薬は、かつては、ほとんどが調整試薬でした。例えば基質剤と溶解液を混合するようなタイプです。自ずと間違いも多かったと思います。その後、少しずつ無調整の液状試薬になっていきました。その流れとともに、試薬の調整後の有効期限も長くなりました。すべての試薬ではありませんが、かつては調整後の使用期限が3日とか5日程度だったものが、14日とか30日程度にまで伸びたのです。このことは、試薬準備の回数の減少につながります。

試薬を調整したり、準備をする回数が減るということは、それだけ間違いが起きる機会が減少するということです。したがって、液状試薬の登場は、作業の効率化に大きく貢献するとともに、医療過誤の防止にもつながったといえます。

測定機器の試薬搭載方法にも変遷があります。かつては、試薬の設置場所を機器に登録しておき、その場所に試薬を設置するという方法でした。その後、バーコードを使用するようになりましたが、最初は手動で行う作業もありました。その後徐々に、試薬の架設や試薬情報の取り込みが、完全に自動で完了できるようになってきています。ただ、測定機器の種類によっては、現在も手動で試薬を設置するものもあります。

試薬の準備に人の手が介する以上、間違いを完全になくすことは難しいと思います。そのため、チェックルールを整備したり確認手段を構築しています。測定機器の進歩により、人の手を介する部分が減ってはいますが、些細な間違いが医療過誤に繋がることもあります。また、試薬調整のステップがなくなったとはいえ、液状試薬であっても試薬の不良が全くないという保証はありません。そのため確認手段は必要です。いつでも、どのような時でも、必ずコントロール測定をすることはもちろんですが、交換や追加をした試薬の記録を残すといったことも有効かもしれません。
間違いが起こらない工夫
試薬などの間違いによる誤報告の防止には、そもそも試薬を間違えない工夫も必要だと思います。容器の形状やバーコード管理などは、施設の努力ではどうにもならないことかもしれません。関係メーカーに委ねるしかないでしょう。ただ、さまざまな事情があると思いますが、例えば機器の更新など、測定機器を選択するタイミングがある場合には、選択の条件の中に、「試薬の完全なバーコード運用」といった事を必須要件とするのも一つの手段だと思います。

試薬の保管場所の見直しも有効な場合があると思います。「同じ形状の試薬は並べて置かない」といったことは、取り間違いの防止に多少は役立つと思います。また、保冷庫など保管場所の整理整頓も重要です。各項目ごとに仕切りをつけるなどして保管場所を明確にし、試薬名を明記する、などの工夫も大事だと思います。

間違いは起きるもの

以前と比べて、試薬の間違いは起き難くなっていると思います。調整試薬が少なくなり、バーコードで管理され、使用期限が長くなったことで交換の機会も減りました。こういった一つ一つのことは、業務の効率化を目指したものですが、結果として、試薬間違いの減少に貢献していると思います。

しかし、やはり間違いはゼロではないと思います。液状試薬で使用期限が長くなっても、例えば容器を移し替えたりしていませんか。容量を多くしてテスト回数を増やしたいために、別の容器に移し替えたりしていませんか。中途半端に残った試薬に追加したりしていませんか。このような行為の是非については賛否が分かれると思いますが、間違いが起こりやすい場面であると考えられます。

試薬の間違いは、結果の誤報告に繋がります。これは誰もが容易く想像できることだと思います。しかし、「間違えるはずがない」と思っていませんか。
私たちは「絶対間違えない」ということはないと思います。運用方法を、どのような場面で間違いが起こり得るのか、という観点で、一度見直してみるのも良いのではないかと思います。業務の効率化も重要ですが、間違いが起きない、間違いに気付くことができる運用方法の構築も、大切なことだと思います。
検査室の様子については次の記事にも書いています。
検査室で起こるトラブルにはこんなこともあります。
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医療安全情報です。専門的ですが興味のある方は見てみてください。




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