溶血検体の何が問題となるか考えよう

溶血していたけど値は大丈夫っていわれたけど、本当なのかな・・・?
生化学検査で検体が溶血していることに気付いた時、まず何を考えますか。
溶血の影響を受けることが多い項目の測定結果が基準範囲内だったら、問題なしと判断しますか。
今回は、臨床検査技師として、溶血検体の結果の判断について考えてみたいと思います。
溶血に関しては他の記事でも取り上げているので、重複する内容もあるかもしれませんが、合わせて読んでいただければと思います。(検体の溶血 [採血のこと5]・溶血の影響 [検査結果の考え方3])

溶血の影響
溶血とは赤血球が壊れた状態です。赤血球が壊れると、赤血球の中からいろいろな成分が漏れ出てきます。このことによって、さまざまな項目に影響を与えることになります。

最も分かりやすい影響は、ヘモグロビンの漏出による色調の変化です。通常は黄色の血清が赤色になります。色調の変化は測定系に干渉し、測定値に影響することがあります。アルカリフォスファターゼ(ALP)、尿酸、ビリルビンなどが該当します。また、この赤色の濃さから、溶血の強さの度合いをある程度推測することができます。

赤血球から物質が漏出することによって血清中の量が増える、すなわち測定値が高くなる項目があります。カリウム(K)、乳酸脱水素酵素(LD)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)などが代表的です。逆に、酵素が漏出することにより血清中の物質が分解され、測定値が低くなる場合があります。インスリン、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチドなどが該当します。

測定値をみてどうするか
結果の確認

測定値を確認するとき、まず最初に全体をながめることが多いと思います。全体の印象から、あまり問題なさそう、ちょっと大変かも、などと考えながら、個々の測定値を基準範囲や前回値を参考に確認していきます。この最初の印象が、先入観になってしまうことは望ましくないのですが、ある程度の時間で多数の検体の測定値を確認する場合、全体の印象を捉えることは有意義な場合が多いと思います。

測定結果を見るとき、数値が大きいもの、つまり高い値に目がいくことが多いと思います。これは、やむを得ないことかもしれません。高い値は目立ちますし、基準範囲を超えた値に「H」をつけたり、数値を赤色表示にする設定をしていると、一層目を引くことになります。測定結果を確認するため最初に全体をながめた時も、同様の現象が起きることになります。

ただ、これは注意が必要だと思います。低値で問題がある項目を見逃す要因になり得るからです。たとえば、ナトリウム、カリウム、クロール、コリンエステラーゼ、総蛋白、アルブミンなどの低値は、臨床的に問題となることがあります。また、低値の測定値は、サンプリング不良による偽低値なども考慮する必要があります。したがって、結果を報告する際には、低い値にも注意しなければなりません。

では、基準範囲内ならすべて問題ないでしょうか。これも注意が必要だと思います。前回値がない場合は基準範囲のみを参考にすることになりますが、前回値がある場合、その変動には注意しなければなりません。前回が基準範囲内だった項目が異常値となった場合は、再検査などの対応が行われることが多いと思います。しかし、異常値が基準範囲内になった時はどうでしょうか。「良くなった」と勝手な解釈をすることはありませんか。時系列データなども活用し、必要に応じて再検査もすべきだと思います。正しく測定できずに、偽の基準範囲内の値を示しているかもしれないからです。
溶血検体の確認
溶血検体の場合はどうでしょうか。カリウムやLDが高値であることが多く、これらの値が最初に目が行くと思います。また、溶血していることがわかっていて結果を確認する場合は、まず、影響を受けやすい項目を確認することが多いかもしれません。特にカリウムが、どの程度高値となっているか、を意識することが多いと思います。

カリウムは、高値の状態が続くと生命に危険が及ぶことがあるため、本当に高値かどうかの見極めは重要です。溶血の影響の可能性が考えられるのであれば、担当の医師に伝え、再採血などの対応をする必要があります。

溶血検体確認の際の問題点
カリウムが高値のとき

溶血検体でカリウムが高くなることは、ある意味「常識」のように思われていると思います。検体の検査結果には血清情報も報告されますから、結果を見る医師にも溶血していることは伝わると思います。また、たとえばカリウム 7.0mEq/L といった高い値値になると、結果の数値の横に「H」であったり「参考値」などのコメントも付記され、 医師にも伝わり易いかもしれません。だからといって、直接連絡することを省略することはありませんか。

溶血によって影響を受ける項目はある程度明確です。また、溶血の強さも、血清情報として溶血1+、2+、3+、などの報告がされると思います。しかし、溶血の強さについては、統一した見解は作られていないと思います。施設によっては、ヘモグロビン濃度などから基準を設定していると思いますが、あくまでも施設ごとの基準です。明確な基準がない施設も少なくないと思います。

測定値に対する溶血の影響について、明確な判断材料は少ないと思います。例えば、溶血が「2+」の時、カリウムがどれだけ高くなるかを明示することはできない、ということです。ある程度の目安は示すことができるかもしれません。しかし、正確な値を示すことは難しいと思います。カリウムのように生命に危険が及ぶ可能性がある項目では、より正確な値が求められます。しかも、処置に時間的猶予はあまりないと考えられます。したがって、「カリウムの異常値は溶血によるもので、溶血していることは血清情報を見ればわかるよね」は、臨床検査技師の対応としては間違っているのではないかと思います。

当直時の対応の中で、「カリウム 8.0mEq/L」 の連絡漏れを経験したことがあります。担当検査技師に、なぜ連絡をしなかったかと尋ねると、「強溶血だったから。コメントに「溶血検体のため参考値」と入力しました」という回答でした。

そもそもカリウム 8.0mEq/L はパニック値です。強溶血で正しい値ではないと判断するのであれば、その旨を提出医に伝えるべきだと思います。提出された検体が強溶血だったこと、正しい測定結果ではないと思われること、再採血をお勧めするということなどを、速やかに医師に連絡するべきです。その報告を聞いて、再採血をするかどうかは、最終的には医師の判断になります。患者様の状態を直接見ているのは担当医ですし、血液ガスの結果などからカリウムの値は確認していて、大きな問題はないと判断する場合もあります。
カリウムが基準範囲内の時
ところで、溶血検体を測定した時、カリウムが 4.0mEq/L だったらどうしますか。おそらく多くの場合、「溶血していたけどカリウムが高くなかったから大丈夫だ。」と考えるのではないでしょうか。しかし、本当に大丈夫でしょうか。

溶血によってカリウムの値が高くなることはよく知られています。これは、カリウムの値がどのレベルでも、同様に起こる現象です。つまり、溶血検体が、基準範囲の下限程度、つまり3.5mEq/Lだった場合、真値はもっと低値、つまり3.0mEq/L程度かもしれないし、あるいはもっと低いかもしれないということです。

3.5mEq/L未満は低カリウム血症とされ、3.0mEq/L以下では何らかの症状が現れ、治療の対象となる場合もあります。2.5mEq/L未満では致死性不整脈を引き起こすリスクが高まるとされています。カリウムは高値の時のリスクに目を向けがちですが、低値も見逃してはならないのです。

異常な測定結果のカルテ記載

通常とは異なる検体の異常な測定結果が、カルテに残ることを望まない医師は少なくありません。また、ある程度の規模の病院では、担当医師が変わることは珍しいことではありません。稀にですが、担当医が変わって、過去の結果を見た時に分かり難いから、という理由から、誤った結果を削除して欲しいと言う医師もいます。強溶血の検体の結果についても、再採血をした結果に書き換えて欲しいと言われることもあります。

溶血に限らず、検体の取り間違いや点滴の混入など、正しい検体ではない場合、その結果の削除や、再採血後の結果での上書きを求められた経験が実際にあります。しかしこれは、検査結果の改ざん、カルテの記載事項の改ざんと判断される可能性がある行為です。

以前は、医師に言われた通り、結果の上書きなどが行われる場面が少なくなかったように思います。現在では、ISO15189を取得している施設では禁止事項になっていますし、ISOを取得していなくても、上書きなどの修正はせずコメントなどを付記して、結果の数値は残すような方法を取るようになっていると思います。また、電子カルテの仕様で、結果の修正などが不可になっている場合も多いと思います。

強溶血の場合には再採血される場合が多いと思います。これは、正しく患者様の状況を確認するために必要なことです。溶血していて正しい結果ではないと判断し再採血を実施したのであれば、その旨はカルテに明記されなければなりません。

本来、検査科の臨床検査技師が再採血を決定することはできません。しかし、溶血の程度や、どの項目が影響を受けている可能性が高いかなど、実際に検体を取り扱っている検査技師だからこそわかることがあるはずです。そういった内容を、コメントなりに記載して残すことも必要な仕事なのではないかと思います。
正しく結果を伝えるために
検体の溶血は、残念ながらそれほど稀なことではありません。日勤帯でも当直時でも、溶血検体に遭遇することがあります。
溶血が検査結果に何らかの影響を与えることは、様々な場面で言われていると思います。臨床検査技師であれば、、程度の差はあると思いますが、知識として持っていることだと思います。

しかし、知っていることと、正しい対応ができることは、異なると思います。臨床検査技師は正しい結果を迅速に臨床に報告しなければなりません。「正しい結果」とは、「受けとった検体について正しい測定結果」ということです。そしてこれは、患者様の状況を正しく反映しているとは限りません。検体に問題があれば、その結果は患者様の検体の真値を示すとは限らないからです。

検体に問題があるかどうかを最初に気付くことができるのは、多くの場合、検査を担当している検査技師です。そして、その問題が検査結果に影響するのであれば、担当検査技師は、担当医師にその旨を説明できなければなりません。

検体が溶血しているのであれば、例えばカリウムが「高値は仕方がない」とか「低値だから問題ない」のではなく、患者様の真値ではないということを正しく理解し、伝えることが大切だと思います。


溶血については次の記事も読んでみてください。

専門的な内容になりますが、興味のある方は読んでみてください。



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