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検査結果の考え方 3 [溶血の影響]

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ぺんさん
ぺんさん

「今回は溶血していたので参考値ですね・・」と言われたけど、どういうこと?

溶血していると正しい結果が得られません。したがって再採血が推奨されます。しかし実際には、再採血をせず参考値として報告しているケースも少なくありません。
溶血は、すべての検査項目に影響があるわけではありません。また影響を受けるとしても、すべてが同様の影響を受けるわけでもありません。影響がない項目、影響が小きい項目、影響が大きい項目があるのです。
ここでは、どの項目がどのような影響を受けるかについて考えます。

「溶血」とは、赤血球が壊れた状態です。
血液は血球と血漿に分けることができますが、そのどちらにもさまざまな成分が含まれています。赤血球をはじめとする血球成分は、物理的な刺激などにより破壊されることがあります。特に赤血球が破壊されると、血漿あるいは血清の色調が赤味を帯びますが、この状態を「溶血」と呼ぶわけです。どの血球が壊れても、中の成分が出てくることは変わりません。しかし、赤血球はその数が多いので影響が大きいといえます。血球成分の代表的なものは、赤血球、白血球、血小板です。それぞれの血液1μLあたりの概数は、赤血球450万個から500万個程度、白血球4000個から9000個程度、血小板15万個から40万個程度です。赤血球の数が圧倒的に多いことがわかると思います。
「溶血」は採血時のさまざまな要因で引き起こされますが、それ以外に患者様の病気によっても起きることがあります。溶血性貧血などの疾患では体の中で赤血球が破壊されるため、採血検体にも溶血が認められることがあります。疾患による溶血の場合は、当然再採血の対象にはなりません。再採血となるのは、取り直すことによって溶血が回避できるだろうと考えられる場合です。しかし、原因が何であれ溶血が認められる検体では、測定結果の判定にはその影響を考慮する必要があります。

溶血による測定結果への影響は、赤血球が壊れたことによって漏出した成分によって引き起こされるといえます。赤血球が壊れて放出されたヘモグロビン、血清あるいは血漿中より赤血球中の濃度が高い成分の漏出、赤血球中の酵素の漏出、などが原因となり、測定結果が真値より高くなったり低くなったりします。
ヘモグロビンの影響としては測定系への干渉があげられます。測定系において試薬や反応を妨害することにより反応性が変化したり、その色調により測定波長での吸光度の測定に影響するものです。
アルカリフォスファターゼ(ALP)が溶血により低値となるのはこの理由によります。また、ハプトグロビンも低値傾向となりますが、これは溶血により放出されたヘモグロビンとハプトグロビンが特異的に結合し、結果としてハプトグロビンが消費されるためです。
一方総蛋白の場合は、その測定系において、溶血により放出されたヘモグロビンを血清中の蛋白質として認識して測りこむため高値となります。また、尿酸やビリルビンは、ヘモグロビンの色調が測定に干渉することにより高値を示します。
血清、血漿中より細胞、つまり血球に多く含まれている成分は、溶血により赤血球が壊れると血清中に漏出し、測定結果が高値となります。代表的なものとしては、カリウム(K)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アスパルギン酸トランスフェラーゼ(AST)、アルドラーゼ、鉄(Fe)、葉酸、神経特異エノラーゼ(NSE)などがあります。
溶血によって血球から漏出する成分としてもう一つ、蛋白分解酵素(プロテアーゼ)があります。プロテアーゼの影響を受ける成分には、インスリン、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などがあり、プロテアーゼにより分解されて低値となります。

溶血により高値となるもの
総蛋白 尿酸 ビリルビン カリウム LDH AST アルドラーゼ Fe 葉酸 NSE  

溶血により低値となるもの
ALP ハプトグロビン インスリン BNP

溶血による測定項目への影響は、溶血の強さとある程度比例関係にあると考えられます。弱い溶血より強い溶血の方が測定項目への影響が大きくなるということです。
溶血の強さはある程度肉眼的に判断することができます。血球が壊れてヘモグロビンが漏出することによる赤色の強さを見るわけです。ごく薄い赤色から葡萄酒色といわれるような赤黒い感じの濃い赤色まで、その色調はさまざまな段階があります。実際に検査における溶血の評価は、主に分析装置に設定された計算式によって導き出され、多くの施設では「1+、2+、3+、4+」というように表示しています。ただ、「溶血1+」がヘモグロビン濃度としてどのくらいかという点は、施設ごとの設定にゆだねられていて、厳密には統一されていないのが現実です。
ところで溶血による検査結果の変動と溶血の強さの関係は概ね比例はしていますが、どの項目も同様の動きをするわけではありません。多くの場合、溶血が強くなれば影響も大きくなりますが、項目によって異なります。例えば、私が以前検討した時のデータでは、ヘモグロビン濃度0㎎/dLの時の値を100%とすると、ヘモグロビン濃度約500㎎/dL(溶血4+相当)では、LDHが400%以上、ASTでは約200%、総蛋白では110%程度、といった感じでした。これはあくまでも一例です。同様の傾向はみられると思いますが、どこの施設でも同じ結果になるとは限りません。これも、溶血による参考値の判断が難しい要因かもしれません。

溶血を認めた場合、検査結果に影響があるので一般的には再採血が勧められます。しかしすべての項目が影響を受けるわけではありません。言い換えれば、項目によっては、再採血をせずにそのまま報告をしても臨床的に大きな問題にはならない場合もあります。
こんな経験があります。私がある病院で当直をしていた時のことです。救急外来からの採血検体を遠心分離したところ溶血していました。どれくらいの溶血だったかデータとして残っていないのですが、医師に連絡しようと思ったので、結構強い溶血だったと思います。採血をしたのは救急外来の看護師でしたので、その看護師に直接再採血を依頼するのも一つでしたが、夜間の救急外来でのこと、それほど忙しい日ではなかったと記憶していますが、再採血で時間をとるのは具合が悪くて来院した患者様にとっても好ましいことではありません。そこで私は担当医師に連絡をしました。「先ほどの患者様の生化学の検体ですが、結構溶血しているのですが、再採血しますか」と。すると医師は「CRP(C反応性蛋白)は溶血の影響ないよね。今日知りたいのはCRPだからそのままで測定していいよ」と即答でした。CRP以外の項目も依頼されていましたがそのまま測定することとし、「溶血」のコメントを付記して報告しました。このケースは医師も検査について熟知していて、スムーズに話ができました。もちろんいつでもこのような状況になるわけではありませんが、溶血の影響を十分理解していれば、このような考え方もできるといえます。

生化学の検体を遠心分離して溶血を認めた場合、「とりあえず検査してみる」ということがあります。溶血の度合いがあまり強くなく、それほど大きな影響はないと推測される場合です。そんな時に例えば検査結果のKが3.8mEq/Lだったとします。ここでよく聞かれるのが、「異常値ではなかったから大丈夫だね」。Kは溶血で高値となるといわれています。基準範囲は概ね3.5mEq/L~5.0mEq/Lですから、3.8mEq/Lは基準範囲内で問題ない値と考えがちです。しかし、溶血の影響を受けて3.8mEq/Lになっていたとしたら、本来はもっと低値で3.0mEq/Lだったとしたらどうでしょう。K3.0mEq/Lは低カリウム血症の状態で、何らかの処置が必要かもしれない値です。
溶血の影響というと、どうしても派手に異常高値となることを想像しがちですが、本来異常低値だったものが見かけ上基準範囲内に入ってしまう場合もあることを認識しているべきでしょう。当然、といえば当然のことなのですが。

採血検体が溶血している場合、様々な理由から様々な項目に影響を与えるため再採血が推奨されます。しかし、さまざまな理由から再採血ができない場合もあります。また、あえて再採血をしない場合もあるかもしれません。実際には溶血が認められる検体で測定が行われることは少なくありません。そのような場合検査結果には「参考値」というコメントが付記されます。この「参考値」の意味は、項目によって高値になっていたり低値になっていたり、その程度もまちまちということになります。また、影響のない項目もあります。測定結果から真値の推測は難しいといえます。
医師は、採血の検査結果だけはなくその他のさまざま情報と合わせて判断しています。また「溶血参考値」が気になる場合は、次回に再検査をする場合もあると思います。「溶血による参考値」と言われた場合は、いつでもすべてが同様の影響とは限らないことを考慮し、一喜一憂することなく、冷静な判断をすべきといえるでしょう。

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