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尿検査のこと 4[蓄尿]

採尿・採便と検査
ぺんさん
ぺんさん

蓄尿してくださいって言われたけど、どうやってするのかな・・・

「蓄尿」とは、一定時間に排泄された尿をすべて専用の容器に入れて保存することですが、聞いたことはあるでしょうか。実際に蓄尿をしたことがある方はあまり多くないかもしれませね。
蓄尿については「尿検査のこと」(尿検査のこと 1[採尿])や検査結果のこと(検査結果のこと 2[腎機能])でもふれていますが、ここで、あらためて「蓄尿」について考えます。

蓄尿は主に腎機能の評価のために行います。
蓄尿する時間は一定時間とされていますが、通常は24時間、つまり1日に排泄した尿を溜めて、その尿中の成分の分析をします。たとえば尿蛋白を測定すれば、尿蛋白の1日排泄量を知ることができます。また、尿量も大切な情報です。成人の場合、一日の尿量は通常1000ml~2000ml 程度と言われています。水分の摂取量や体調によって変化しますが、極端に多い場合や少ない場合は、何らかの異常が考えられます。

蓄尿の方法
  • 開始時刻に排尿します。この尿は溜めずに捨てます。(例:朝7時)
  • 開始時刻以降の尿を、専用の容器に入れて溜めていきます。
  • 開始時刻から24時間後、つまり翌日の開始時刻と同時刻に排尿します(例:翌朝7時)。
    この尿を溜めて終了となります。
蓄尿の注意点
  • 蓄尿中の蓄尿容器は、高温多湿を避け、冷暗所に保管します。
  • 検査項目によって、保存剤、安定化剤、6N塩酸、などの薬剤が必要な場合があり、その場合は蓄尿開始前に、あらかじめ蓄尿容器に該当する薬剤を入れておきます。
  • 蓄尿が終了したら尿量を測定します。蓄尿の一部を検査に提出する場合は、必ず十分に攪拌した後一部を提出用の容器に分取します。

尿中の成分の排出量は、昼夜や食事、運動などの影響を受けます。そのため、随時尿ではいつの尿で検査したかによって測定値が変わってきます。24時間蓄尿することによって、そのような影響がなく、正確な排出量を知ることができます。
蓄尿で測定する主な項目をいくつかあげてみます。

  • 尿量
    1日の尿量は通常1000ml~2000ml 程度。
    1日の尿量が著しく増えた状態は「多尿たにょう」とされます。概ね2500ml~3000ml を超えた場合に多尿と言われますが、体重を考慮した定義もあります。この場合は、1日の尿量が40ml/kg(体重) 以上の場合を多尿とするもので、体重50㎏の人では2000ml 以上が多尿となります。多尿の主な原因として、水分の過剰摂取、糖尿病や腎臓病、尿崩症などが疑われます。
    1日の尿量が著しく少ない状態は「乏尿ぼうにょう」とされます。1日の尿量が400ml 以になると乏尿、100ml 以下になると「無尿むにょう」と言います。主な原因として、脱水、腎臓病、尿路閉塞などが疑われます。
  • クレアチニンクリアランス
    蓄尿中のクレアチニン値と血清中のクレアチニン値、尿量から、腎臓の糸球体でどのくらいの血液が濾過されているかを調べるものです。基準値は凡そ100ml/分~120ml/分 ですが、性差、年齢差などがあります。腎臓がどれくらい老廃物を除去しているかを示しているので、腎機能が低下するとクレアチニンクリアランス値も低下します。
  • 蛋白量
    24時間蓄尿の蛋白量を測定すると、尿蛋白の1日排泄量がわかり、腎臓の機能や食事療法を評価することができます。健常者でも1日150㎎(0.15g)までは認められるとされ、0.2g/日以上を陽性と判定します。3.5g/日以上はネフローゼ症候群に相当すると言われています。
  • 糖定量
    24時間蓄尿の糖を定量すると、一日の糖の排泄量がわかります。糖尿病の診断や、血糖値のコントロール状態の把握のために用いられます。基準値は40㎎~85㎎/日 程度とされています。血糖値が腎臓の尿糖排泄閾値いきちである160mg/dl~180mg/dlを超えると、尿中に糖が排泄されます。ただしこの閾値は個人差もあり、また腎機能の低下によっても変わってきます。尿糖は血糖値の変動に左右されるため、随時尿では尿糖の排泄の状況を正しく把握することが難しく、24時間蓄尿で検査が行われます。
  • 尿中ナトリウム濃度
    尿中のナトリウム濃度を測定することで、1日の食塩摂取量を推定することができます。基準値は174mEq/日~348mEq/日。食事によって摂取したナトリウムは95%以上が腎臓から尿として排出されます。ナトリウムは塩分の主成分です。したがって尿中のナトリウム濃度から塩分摂取量を推定することができ、高血圧や腎臓病の食事療法の評価などに利用されています。
  • 尿中アルドステロン
    アルドステロンは副腎皮質から分泌されるホルモンで、ナトリウムとカリウムのバランスを調整し、血圧を調節する働きがあります。基準値は1.0μg/日~19.3μg/日。アルドステロン分泌異常が疑われる場合、尿中アルドステロンが測定されます。

蓄尿検査は、一定時間に溜めた尿を提出していただいて検査をします。「尿を溜めるだけ」なのですが、なかなかうまくいかないことが多い印象です。
入院と外来、また病院によって多少状況が変わると思いますが、患者様ご自身が普通にトイレに行くことができる場合、スタッフがやり方をご説明して、ご自身で溜めていただくことになります。この時ありがちなのは、「1回溜めるのを忘れました」というものです。通常1日の排尿回数は5回から7回程度と言われています。このうちの1回なわけですが、尿は毎回同じではありません。そのために24時間蓄尿をして検査するともいえるわけです。1日のうちどの尿を溜め忘れたのかによって内容が全く変わってしまいます。
ただ、この点をご理解いただくのは意外と難しい印象があります。患者様だけではなく、医療スタッフにもご理解いただけないことがありました。蓄尿が終わる前に、「尿の一般検査(定性・沈渣検査)のための採尿をした」と言われれることが少なからずありました。尿量だけは把握していて、蓄尿量「〇〇〇ml+〇〇ml」のように記載されていて、これはどういう意味ですかと問い合わせると、先のように「尿検査に提出した」という回答なのです。尿量だけわかってもその尿が混ざっていなければ正しい蓄尿とはいえません。依頼項目の測定をすることは可能ですが、正しい1日排泄量やクレアチニンクリアランスを報告することはできなくなります。その場合「参考値」としたり、検査を中止にするという対応になりました。
また、外来で蓄尿をする場合も同様です。蓄尿の方法は十分にご説明し、あるいは説明の文書をお渡ししたりするのですが、間違えてしまう場合もありました。「1回入れ忘れ」だけでなく、「終了時間を間違える」といったこともありました。「何日にもわたって蓄尿をしていた」という例もありました。
蓄尿するというのは、結構煩わしいものだと思います。トイレにいくたびに採尿容器をもっていき、採尿した尿を蓄尿容器に移す作業をしなければなりません。でも、この「蓄尿」をきちんと行ってはじめて蓄尿検査が成立するのです。正しく理解してご協力いただきたいと思います。

「蓄尿による検査」はあまり馴染みのないものかもしれません。腎機能の検査には、「eGFR」といった血清だけで評価できる項目もあります。(参照:検査結果のこと 2[腎機能])衛生面などでも気になる点はあると思います。昔・・・30年位前とか・・・に比べると、蓄尿による検査は減っている印象です。
でも、医師が蓄尿の検査項目を依頼をしたのであればそれは必要な検査なのです。そして、正しい検査結果を得るためには、正しい検体採取が重要です。蓄尿も正しく行わなければ意味がなくなってしまいます。1回の溜め忘れで正しい評価が難しくなるのです。このことは、蓄尿の検査に携わるすべての人にご理解いただきたいことです。
面倒で煩わしい蓄尿ですが、必要になったら、正しい理解のもときちんと行いたいものです。「たかが蓄尿、されど蓄尿」です。

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