免疫学的検査

ぺんさん
「免疫学的検査」、あるいは「血清学的検査」、「免疫血清学検査」は、聞いたことがあるでしょうか。
免疫学検査とは「抗原抗体反応」という免疫の仕組みを利用して、体内の抗体や抗原の有無や量を調べる検査です。感染症関連、自己免疫関連、アレルギー関連の検査が含まれます。
主な項目をあげてみます。
免疫学的検査の主な項目(1)
- HBs抗原(HBsAg)
B型肝炎ウイルスの表面に存在する蛋白質です。陽性の場合、B型肝炎ウイルスに感染していると考えられます。
基準範囲:陰性(-)
- HCV抗体
C型肝炎ウイルスに対する抗体です。C型肝炎のスクリーニング検査として測定されます。HCV抗体陽性の場合、C型肝炎ウイルスに感染している可能性が高いと考えられます。
基準範囲:陰性(-)
- HIV抗体
AIDS(エイズ:後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスであるHIVウイルスに対する抗体です。HIVウイルスはHIV-1、HIV-2の2種類に大別されますが、現在はこの2種類のそれぞれに対する抗体を調べます。
基準範囲:陰性(-)
- TP抗体(梅毒トレポネーマ抗体)
梅毒トレポネーマに対する抗体です。陽性の場合、梅毒の感染があったと考えられます。特異性が高く、治療後も生涯陽性を示すことが多いとされています。
TPHA(梅毒トレポネーマ受身赤血球凝集反応)、TPPA(梅毒トレポネーマ粒子凝集反応)、TPLA(梅毒トレポネーマラテックス凝集反応)など、検査法に沿った名称で呼ばれる場合もあります。
基準範囲:陰性(-)
- RPR検査(非トレポネーマ脂質抗原検査:rapid plasma reagin test)
脂質抗原を用いて、梅毒に感染した際に産生される抗体を検出する検査です。梅毒に感染すると、カルジオリピンなどのリン脂質に対する抗体(非トレポネーマ抗体)が産生されます。この抗体は梅毒感染から約2週間後から上昇し、適切な治療によって陰性化するとされています。したがって、感染の有無とともに治療効果の判定として有用とされています。STS(脂質抗原検査:Serologic Test for Syphilis)の代表的な検査であり、TP抗体検査と比べて感度が高いとされています。しかし特異度は低いとされ、膠原病や妊娠などで陽性となるBFP(生物学的偽陽性:Biological False Positive)が問題となることがあります。多くの場合、TP抗体検査とRPR検査を併用し、それぞれの結果から診断が行われます。
基準範囲:陰性
免疫学的検査の主な項目(2)
- リウマチ因子(リウマトイド因子:RF)
免疫グロブロンの1つであるIgGに対する自己抗体です。本来抗体は、細菌などの外敵に対して作られ、自分を守る働きを担っています。何らかの原因で自分の細胞を外敵と認識し、自らを攻撃してしまう抗体を自己抗体と呼びます。関節リウマチで陽性となることが多いとされていますが、他の要因でも高値を示すことがあるので注意が必要です。
基準範囲:15 IU/mL 以下
- 血清補体価(CH50)
血清中の補体成分の総合的な活性を調べる検査です。
補体(complement)は、肝臓で生成される蛋白質で、血清中に存在し、感染防御などの免疫反応に関わっています。C1からC9までの9つの成分があります。細菌感染など病原体や異物(抗原)の侵入によって抗体が作られ、抗原抗体複合体が形成されますが、「補体」という名称は、この抗体の働きを「補完する」つまり補助するという意味を示しています。
血清補体価は補体系の異常を検出するためのスクリーニング検査とされています。多くの場合、低下が問題とされ、全身性エリテマトーデス、糸球体腎炎、血管炎、慢性肝疾患などが疑われます。
基準範囲:30U/mL~45U/mL
- C3
補体の第3成分です。血中濃度が最も高い補体成分であるとされています。肝臓などで生成され、感染防御に重要な役割を担っています。多くの場合、C₄、CH50を合わせて測定し評価します。
基準範囲:73mg/dL~138mg/dL
- C4
補体の第4成分です。肝細胞などで産生され、感染防御に重要な役割を果たしています。多くの場合、C₃、CH50などと同時に測定して評価します。
基準範囲:11mg/dL~41mg/dL
- 免疫グロブリン(Ig)
免疫グロブリンはBリンパ球、形質細胞が産生する蛋白質です。体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する役割を持ちます。IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5成分があります。IgG、IgA、IgMは感染防御、IgEはアレルギー反応に関与するとされています。IgDも感染防御に関与しますが不明な点もあるとされています。
基準範囲:IgG 861㎎/dL ~ 1747mg/dL / IgA 93mg/dL ~ 393 mg/dL / IgM 男性 33mg/dL ~ 183mg/dL 女性 50mg/dL ~ 269mg/dL / IgD 13.0mg/dL 以下(測定法などによって異なります)/ IgE 170IU/mL 以下
- ハプトグロビン(Hp)
肝臓で産生される蛋白質の1つです。赤血球が壊れて遊離したヘモグロビンと結合して肝臓に運ぶ働きを担っています。これは血管内での赤血球崩壊、つまり溶血が起こった時に、遊離したヘモグロビンによる腎障害を防ぐなど、重要な役割となります。また、炎症、感染症などにおいても血中濃度が上昇することがあるとされています。異常値の場合、溶血性疾患、ネフローゼ症候群、悪性腫瘍、感染症などが疑われます。
基準範囲:20mg/dL~150mg/dL(一般的な値)
- プロカルシトニン(PCT)
カルシウム代謝に重要な甲状腺ホルモンであるカルシトニンの前駆体(カルシトニンが生成される前の段階にある物質)です。通常はカルシトニンとなって血中に分泌されるため、プロカルシトニンの血中濃度は検出限界(検出できる最も低い量)以下です。重症細菌感染症の際に、細菌やその毒素によって刺激されてプロカルシトニンが産生され血中濃度が上昇します。したがって、細菌性敗血症の診断や重症度判定に有用とされています。
基準範囲:0.05ng/mL未満(敗血症の鑑別診断のカットオフ値0.5ng/mL未満)
- トロポニン
心筋や骨格筋などの横紋筋の収縮に関与する蛋白質複合体で、トロポニンI、トロポニンT、トロポニンCの3つのサブユニットで構成されています。特に心筋細胞に存在する心筋トロポニンは、トロポニンIとトロポニンTの2種類があります。心筋が障害されると心筋細胞から血中に放出され、血中濃度が高くなります。
基準範囲:トロポニンI 26.2pg/mL以下(施設により異なります) / トロポニンT 0.014 ng/mL以下
免疫学的検査の主な項目(3)
- ホルモン
情報伝達物質の一種で、体のさまざまな機能を調節しています。脳下垂体、甲状腺、副腎、生殖腺などの内分泌腺と、心臓、肝臓、腎層、胎盤などのさまざまな臓器で、それぞれ異なるホルモンが産生され、血液中に分泌されます。ホルモンは100種類以上あるとされ、それぞれが異なる働きを担っています。代表的なものとしては、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、副腎皮質ホルモン、インスリン、グルカゴン、レニン、エストロゲン、テストステロンなどがあります。
ホルモンはごく微量で作用するといわれています。分泌量が少ない場合は補う必要があり、多すぎると身体に障害をもたらす場合があります。ホルモンの測定は、それぞれ関わる臓器や機能に関する疾患の診断や治療効果の判定などに有用です。
- 腫瘍マーカー
癌細胞が産生、あるいは癌によって反応した癌細胞以外の細胞が産生する物質です。癌の存在、種類、進行の程度を知る上で重要な情報を得ることができます。現在、代表的な腫瘍マーカーは数十種類あるといわれています。
腫瘍マーカーが高値だからといって、必ず癌と診断できるわけではありません。例えばCEAのように、甲状腺、肺、食道、胃、大腸など、さまざまな臓器の癌で検出されるものもあります。また、飲酒、喫煙、妊娠など、癌とは無関係の要因で高値を示す場合もあります。かなり特異性が高く、高い確率で癌であろうことが推測できる場合もありますが、それでも決定的な診断にはなりません。診断においては、どちらかというと、スクリーニング的な役割といえます。いくつかの腫瘍マーカーを組み合わせて評価することにより、診断の補助としての精度が上がるともいわれています。一方、治療効果の判定、再発の把握などに関しては有用とされています。
免疫学的検査の原理
免疫学的検査は抗原抗体反応を用いているため、特異性が高い検査だとされています。また感度も高く、微量な物質の検出も可能だとされています。
抗原抗体反応とは、身体の中で、外界から侵入してきた細菌やウイルス、花粉などの異物(抗原)に対して免疫系細胞が産生した蛋白質(抗体)が特異的に結合して、無毒化、あるいは排除する生体防御の反応を指します。これは「鍵と鍵穴」と表現され、特定の抗原に対して特定の抗体が結合するという特異性が高い反応です。
この抗原抗体反応を測定系に応用した検査が免疫学的検査といえます。検出したい物質に対する抗体を作成、あるいは、細菌などの抗原を無毒化するなどして、測定試薬としています。
そして、反応の結果生成された抗原抗体複合体を検出するため、さまざまな手法が用いられています。凝集反応、放射免疫測定法、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、イムノクロマト法などがあり、目視判定や機器測定などにより測定値を得ています。
検出原理
- 凝集反応
赤血球やラテックス粒子の表面に抗原または抗体を感作(吸着)し、検体中の対応する抗原または抗体と反応させて凝集塊を作り、検出する方法です。
- 放射免疫測定法(RIA:Radioimmunoassay、IRMA:Immunoradiometotric assay)
125I などの放射性同位元素を標識した抗原または抗体と、検体中の抗体または抗原が反応して形成された抗原抗体複合体の、放射能を測定して定量する方法です。
- 酵素免疫測定法(ELAIZA:Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay、EIA:Enzyme Imminoassay)
酵素で標識した抗原または抗体と、検体中の対応する抗体または抗原との抗原抗体複合体を、酵素反応を利用して検出する方法です。最終的に吸光度を測定することにより定量します。
- 化学発光免疫測定法(CLEIA:Chemiluminescent Enzyme Immunoassay、CLIA:Chemiluminescent Immunoassay)
磁性粒子などを用いた抗原または抗体試薬と、検体中の対応する抗体または抗原との抗原抗体複合体を、化学発光物質を利用して検出する方法です。最終的に発光量を測定することにより定量します。
- イムノクロマト法(Immunochromatography)
毛細管現象を応用した方法です。セルロース膜上を検体がゆっくり流れながら試薬と反応します。試薬は金コロイドなどで標識された抗体または抗原で、検体中の抗体または抗原と抗原抗体複合体をつくり、最終的に発色することで検出する方法です。一般的に判定は目視で行いますが、機器での判定を行う試薬もあります。簡便性、迅速性に優れた手法とされています。
免疫学的検査の変遷
以前は、「免疫学的検査は時間ががかかる検査」という印象だったように思います。
凝集反応による測定法は、赤血球やラテックス粒子などを使用しますが、反応時間は数時間から一晩かかる検査もありました。検査にはマイクロプレートや試験管を使用します。目視判定をする検査が多いですが、機器分析による測定法もあります。
RIA法は1950年代にインスリンの測定に用いられ、微量成分の検出、定量に有用とされてきました。検査時間は、数時間から一晩、測定機器はガンマカウンタと呼ばれる放射線量を測定する機器を用います。
RIA法は放射性物質を取り扱うため、放射線管理区域内での作業が必須となり、検査に従事する人の健康管理、試薬等の取扱い、廃棄物の管理など、特別な設備が必要であり費用もかかります。また、病院の放射線管理区域は、通常、放射線科の管轄になります。したがって、臨床検査技師が放射線科内で検査を行っている場合と、放射線科で検査を担当している場合があると思います。
このようなRIA法は、さまざまな要因により、その後開発されたEIA法などに移り変わる傾向にありました。
放射性物質を使うRIA法から、酵素を用いるEIA法、化学発光を利用したCLEIA法と、主流となる方法は変化してきました。ただ、すべてが完全に置き換わったのではなく、混在している状況といえます。
赤血球やラテックス粒子を用いる凝集反応は、目視判定では細かい定量ができないため、機器測定に取り入れられたものもあります。しかし、測定機器を使用しないということは、検査する場所を選ばないということができ、簡易的な検査として目視判定の検査も利用されています。また、簡易的であり迅速な方法としてはイムノクロマト法も多用されています。
RIA法ではガンマカウンタという汎用機で測定が可能でしたが、EIA法やCLEIA法などは、それぞれ試薬に対応した専用の測定機器が必要となります。測定時間は短縮され、RIA法のように特殊な設備等も不要となりましたが、専用機器を導入しなければならなくなりました。さまざまなメーカーが試薬や機器を開発しており、それぞれ特徴があります。しかし、測定法が標準化されていないものも多く、試薬間差、機器間差があることは否めません。
免疫学検査の検査結果
免疫学的検査は、さまざまな方法がありますが、どれも特異性や感度が高く、微量のホルモンなどの検出にも優れた検査です。検査法が変わっていく中で、検出感度や測定時間などが改善されてきました。
以前は、例えばホルモンの検査結果を採血当日に確認することは難しかったと思います。最近では、生化学の検査結果よりは時間がかかりますが、結果を待つことも可能になっています。
しかし、標準化は途上であり、すべての施設で同じ結果とはなっていません。したがって、検査結果はその施設の基準範囲を参考とし、経過も同じ検査施設の結果で確認するのが良いように思います。
もちろん、医師の判断を聞くことが大切なのはいうまでもありません。
合わせて読みたい
各項目の基準範囲を示しました。「基準範囲」や「共用基準範囲」についてはこちらで説明しています。
「標準化」についてはこちらの記事で確認してください。
参考👉
少し専門的な内容もありますが、一般の方向けの情報です
本記事は診断や治療を目的としたものではありません。あくまでも臨床検査に対する理解を深めていただくための情報や知識の提供の場です。疑問や不安がある場合は必ず医師にご相談ください。
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