標準化

どこで検査しても同じでしょ・・・。
たとえば同じタイミングで2つの病院で血液検査を受けた時、検査結果はどうなると思いますか。
ふつうに考えて「同じ結果になるはず」と思いますよね。「そんなこと当たり前」と。
ところが実際には、これがなかなか難しいことなのです。
ここでは「どこで検査しても同じ結果となる」ということについて考えます。

ひとつの検査項目について、測定方法が複数ある場合があります。この複数の方法で検査した時、同じ検査項目でありながら、検査結果が必ずしも同じ値にならないことがあります。
一人の人が一か所の病院でだけ検査を受けていれば、それほど大きな問題にはならないかもしれません。しかし、たとえばA病院からB病院に転院した時、検査方法の違いによって、同じ項目を検査したにも関わらず検査結果が変わってしまったらどうでしょう。ご本人も困惑すると思いますが、何より診療が混乱してしまうことになりかねません。
この問題を解消するため「標準化」という取り組みが行われています。
標準化への取り組み
どこで測定しても同じ検査結果となるように、基準となる測定方法などを定めることが「標準化」です。
測定法や測定機器、測定試薬などの違いによって測定結果が変わってしまうという問題に対して、1980年代後半からさまざまな取り組みが行われてきました。
まず、基準的測定方法を確立しその使用を広めることで、「標準化」を進めました。生化学検査の項目の中にはヨーロッパなど諸外国と検査法が異なるものがあり、これについても考慮して基準的検査方法が決められました。基準的測定法の使用が広まると、結果的に測定法が統一され、測定結果も統一されることになります。
しかしまだまだ標準化は、生化学検査と血液検査の一部の項目に限られており、すべての項目が「どこで検査しても同じ結果」とはなっていません。また、すべての検査室、検査機関が同じ方検査方法を採用しているいうわけでもないのが現実です。
このことも「どこで検査しても同じ結果」が完全に達成されていない一因かもしれません。
もう一つの取り組みとして、「品質保証施設認証制度」というものがあります。これは日本臨床衛生検査技師会が制定したもので、どこの施設でも適切な臨床検査を安心して受けられることを目指し、検査室で実施している項目について、検査室の品質が保証されている施設を認証するものです。
また、国際標準化機構(ISO)が策定した臨床検査室の品質と能力に関する規格「ISO15189」もあります。臨床検査の品質と能力の向上を図り患者の診療に不可欠な医療情報を提供することを目的とし、これを取得した検査室は国際的に通用するとされています。新しい治療薬や治療法に関して「治験」が大小さまざまな規模で行われますが、世界的な規模で行われるような大きな治験では、その治験に参加する要件として、ISOの取得が求められる場合もあります。
基準範囲
ところで、健康診断の結果や病院での検査結果を見るとき、数値の横に「L」や「H」が付記されていてドキドキしたことがある方もいらっしゃると思います。
各項目には「基準値」あるいは「基準範囲」と呼ばれる値が設定されていて、測定結果をこれに照らし合わせて、基準範囲より低ければ「L」が、高ければ「H」が付記されるという仕組みになっています。
ところで、検査方法や検査機器、検査試薬などによって測定結果が変わることがあるわけですが、そのような場合は「基準範囲」も変わることになります。これもやはり各所に混乱を招くことになりかねません。
共用基準範囲
同じ検査項目で基準範囲が異なるということは、結果の評価基準も異なるということです。このことは臨床の現場で少なからず混乱を招いていました。
この問題を解決するため、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)が、健常者の大規模調査データをもとに「共用基準範囲」を設定しました。検査法などの標準化が達成された40項目を対象としていて、日本医師会など関連団体の賛同も得ています。
2019年以降全国的に導入が進められており、「共用基準範囲」を採用している施設では、どこで検査をしても統一した評価基準をもって検査結果の解釈がなされることになります。
正しい結果と標準化
正しい検査結果でなければ、正しい評価はできません。
しかし、個々の施設は正しい検査結果を報告していても、それぞれが異なる検査方法を採用していると検査結果が異なり、結果として臨床の場には少なからず混乱を招きます。単に「自分が正しければ良い」というわけではないのです。
この問題を解決するために「標準化」が行われています。まだ”完璧”というわけではありませんが、「全国どこで検査しても同じ結果」を目指して、さらに標準化の動きが進められていくと思います。

コメント